放課後R&D

これまでの記事は、すべてGriffithの研究開発に携わっているアーチ株式会社の有志で執筆したものです。アーチは設立後まだ1年しか経っておらず、こんなに若いアニメ制作会社に技術顧問が就任し、研究開発の取り組みを始めていることは業界では大変珍しいと言われます。このコラムでは、その狙いと、それが可能だった理由を技術顧問の目線で紹介してみます。

私はアーチの研究開発を「放課後R&D」と呼んでいます。この言葉は、第一に「放課後」が持つワクワク感—今風にいえば “spark joy” ときめき—からきています。小学校の放課後の、あの好きなことを思いきりやっていい解放感を覚えているでしょうか。ソフトウェアエンジニアの中には、アニメが好きな人たちがたくさんいると思います。技術書典でこの小冊子を手に取ってくださったあなたも、きっとその一人でしょう。アニメが好きで、アニメ作りを応援したい、あるいはアニメ作りの現場を間近で見てみたいという方は少なくないのではないでしょうか。放課後R&Dはそんな人にぴったりです。アニメを見る時間を少し削ってアニメ制作ツールを開発し、アニメを作っている人と交流して知的好奇心を満たす spark joy 駆動の活動なのです。

そして第二に—こちらを想像された方のほうが多いと思いますが—「放課後R&D」という言葉は研究開発チームの勤務形態からきています。実は、Project Griffithの開発方針を決め、実際にコードを書いている研究者とエンジニアは、全員アーチの他に主務を持っています。ふだんの業務を終えた後の空き時間にアーチでR&Dしているから「放課後」なのです。いかに spark joy 駆動の仕事が素晴らしくても、100%フルコミットで転職必須となると心的ハードルはぐんと上がります。雇用する側からしてもそれは同じで、優秀な研究者やソフトウェアエンジニアを相応の待遇で迎え入れるなら、その労働生産性に見合うだけの仕事を用意しなくてはなりません。このように雇用する側もされる側も本気になると、 spark joy 感が下がってしまいかねません。(もちろん、そうならない素晴らしい場もたくさんあります。)

人が自由に出入りできて心の赴くままリラックスして過ごせる、家(first place)でも会社(second place)でもない場所は「third place」と呼ばれます。放課後R&Dは、そうした third place に研究開発の機能を持たせたものと考えることもできそうです。これは、兼業が当たり前の現代において「自由闊達にして愉快なる理想工場」*を実現する一つの試みなのです。

*ソニー前身の「東京通信工業株式会社」設立趣意書より